皆さんは、現代の黒くて大きなピアノが、今の形になってから、まだ150年ほどのことだとご存知でしょうか。
日本では江戸時代後期、ちょうど黒船が来航した頃です。
ピアノの発明
ピアノは、フィレンツェのメディチ家お抱えの楽器製作家、バルトロメオ・クリストーフォリによって、1700年ごろに発明されたものです。
クリストーフォリは、調律師、リュート奏者、弦楽器の製作者などを経て、鍵盤楽器の製作者として活動していたと考えられている人物です。
1687年、クリストーフォリが32歳の時に、トスカーナ大公フェルディナンド・ディ・メディチが、ベネツィア途上の折にパドヴァへ立ち寄り、クリストーフォリをフィレンツェに来るように説得したと伝えられています。
その後40年余りをメディチ家の楽器工房主任を務め、フェルディナンドの潤沢な援助を受け、鍵盤楽器制作に励んだ結果がメディチ家の1700年の楽器目録に記載されています。
その一つがピアノアクションの原型となるクリストーフォリのピアノです。
バルトロメーオ・クリストーフォリの新しい発明によるある日チェンバロ。
Un Arpicembalo di Bartolomeo Cristofori di nuova inventione, ch fa’ il piano, e il forte, a’ due registri principali unisoni, con fond di cipresso senza rosa…
ユニゾンのピッチによる二組の弦を持ち、響板はサイプレス(糸杉)材でローズではなく、ダンパーとハンマーを有するアクションによって小さな音(ピアノ)も大きな音(フォルテ)も出すことができる
「ピアノもフォルテも出せる」というフレーズから、「ピアノフォルテ」と呼ばれるようになったと思われます。
対して「フォルテピアノ」という言葉は、「昔のピアノ」をさすものとして、便宜上使われている言葉です。
初期のピアノは、現代のピアノとは大きな違いがありました。例えば
- ペダルがない
- 鍵盤がとても短くて幅が狭い
- 本体がとても小さい
などが挙げられます。
もし現在、この初期の楽器を聴くことができたなら、現代のピアノの音とはかなり異なる響きーとても小さく、響きも少ないーことに驚くに違いありません。
クリストーフォリのピアノは、チェンバロのように弦を引っ掻いて音を出すのではなく、弦をハンマーで叩いて音を出す、という原理です。
この原理は現代のピアノにも受け継がれています。
その後、クリストーフォリのピアノを土台として、ピアノはストラスブールやドイツ、オーストリア、ロンドンへと渡り、バッハの息子たちの時代からモーツァルト、ベートーヴェンの時代にはどんどんと発展していきます。
なかでもベートーヴェンの時代には、ピアノが急激に変化を遂げていき、ウィーンの街だけで、150以上ものピアノ工房があったとも伝えられています。
スタジオのフォルテピアノは、1814年頃にヨハン・フリッツによって製作された6オクターヴの楽器です。
ミラノのアンドレア・レステッリ氏(以降アンドレアと呼びます)の製作です。アンドレアはチェンバロ、フォルテピアノ、クラヴィコードの製作家として、ヨーロッパ中でも賞賛を得ているアーティストです。
実は、イタリア留学時代、アンドレアのご家族とはとても仲良くさせていただいていました。
我が家のクラヴィーコードもアンドレア作です。
今は、ピアノは「黒」が定番ですが、それもごく最近のことです。
ですが、当時は楽器自体の見た目の美しさもとても大切なことでしたので、私たちも楽器としての音はもちろん、その存在自体がすでに美しい楽器を目指して、木の剪定からはじめました。
フリッツピアノとの出会い
実は、イタリア留学時代、私はこのフリッツピアノの1814年頃に作られたとされる“オリジナル”を家に置いて、毎日練習していた幸運な留学生でした。
フリッツはもともと、私の師匠ラウラ・アルヴィーニ先生のスタジオにおいてあったものです。
持ち主はラウラ先生の友人、ヴィータ。
ヴィータは楽器をご家族から受け継いだけれど、演奏家でない自分にはどうしてあげることもできない、でも楽器として生まれたのに誰も弾かないのは良くない!、という思いがずっとあって、楽器の行く末を悩んでいるときに、ラウラ先生と出会い、その後アンドレアとも繋がり、アンドレアが修復、そしてラウラ先生が引き取ることになったそうです。
ですがラウラが2005年に急逝し、またもや楽器の行方を案じていたところ、私がフォルテピアノを探しているのを知っていたアンドレアが、ヴィータを紹介してくれました。その後4年間にわたり、自宅にいながら、この極上のピアノとともにバッハの息子たち、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ウェーバーなどを勉強することができました。留学中、家に楽器を置けること自体が大変なことなのに、博物館に置かれていても良いほどの楽器がいつも自分の隣にある・・・今考えてみても夢のような日々でした。
帰国をするにあたって、そのピアノを複製をしたのが、私のフォルテピアノです。
このフォルテピアノで勉強できること
フォルテピアノにはさまざまな種類があります。
これはそれだけ楽器製作家と、作曲家であり演奏家であった音楽家たちが、芸術の躍進とピアノの改良を求めていった結果だといえるでしょう。
例えばスカルラッティならクリストーフォリの初期ピアノ
ハイドンやモーツァルトはウィーン式アクションを持つ5オクターヴのピアノ
とくにベートーヴェンは、
ウィーン式アクションのワルターピアノ(5オクターヴ)からはじまり
フランス式アクションのエラールピアノ(5オクターヴ半)
ブロードウッドピアノ(6オクターヴ)
グラーフピアノ(6オクターヴ半)
とピアノが飛躍的に革新していった時期です。
鍵盤数が増えるにしたがって、音色はよりまろやかになり、ロマン派の息吹を感じるようになってきます。
私自身のフォルテピアノのレパートリーとしては、ジュスティーニ、バッハの息子たちの時代から、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、メンデルゾーンあたりまで。このレパートリーをほとんどカヴァーできて、音色がロマンティックになりすぎない、というのを求めていたので、その両方を兼ね備えているフリッツはまさに理想の楽器です。
フリッツピアノを使って勉強することで
- 軽やかなタッチ (第1関節、第2関節を使ったタッチ)
- 作曲家が求めた本来のペダルの使い方
- 運指
- フィンガーペダル
- 左右のバランス、高音と低音のバランス
- ベートーヴェンがとくとするpとfzの効果的な演奏法 etc.
本来の作曲家が追求しようとした演奏法にアプローチできるようになります。
私自身、フォルテピアノの技術や知識は、ピアノ演奏に大変役立っています。
フォルテピアノのレッスンは、ピアノ指導者、当アカデミーのピアノやチェンバロのレッスン生を対象としています。
フォルテピアノ レッスン
入会金・体験レッスン | なし |
1時間 | 15,000円 |
1時間半 | 20,000円 |