田代先生のリサイタルへ

震えた演奏会でした。

田代慎之介先生のピアノリサイタル。


大学生の頃、先生のお名前はもちろん存じ上げていましたし、お姿をお見かけしたこともありました。

けれど、実際に演奏を聴いたのは今回が初めて。

演奏を聴くことが、どれほど学びになるか、というのは今なら痛いほどわかります。

でも、当時の私は「聴く時間があれば練習しないと」という強迫観念に囚われ、余裕が全くありませんでした。

余裕のない自分の演奏が、

今振り返ればどれほど魅力を欠いていたか。

それも、当時の自分には見えていなかったのです。

さらに、上手な人の演奏を聴くと心が乱れる。

嫉妬と焦燥感。

そしてまた、ひたすら練習する、という悪循環。

あの頃のピアノ科の学生には、同じような思いを抱えていた人も少なくなかったのではないかと思います。

もっと器用で、おおらかな心を持っていたならなぁ。

そんな私のagro dolce(甘くて苦い)思い出はここまでにして。

昨日の田代先生の演奏は、本当に素晴らしいものでした。

《超絶技巧練習曲》が終わった後、アンコールに《愛の夢 第3番》《ラ・カンパネラ》《トロイメライ》。

演奏後、先生が「自分を見つめ直す時間だった」と準備期間について語られたことに、胸が熱くなりました。

若い頃から幾度となく弾かれてきたであろうこの難曲を、今なお体軸のブレもなく、鮮やかで清々しいほどの指運びで弾き切る姿。

そして何か、悟りも感じられて。

一晩明けた今でも、胸があったかいです。