バロック倶楽部 2026年夏の全講義が終わりました

9/18 全3回、4ヶ月間のバロック倶楽部での講義が終了しました。

曲は、前回、私が取りこぼしてしまった《メヌエット BWV. Ahn.132》 と、《フランス組曲第4番》でした。

今日はそのなかの《メヌエット BWV. Ahn.132》 について、少し書きたいと思います。

このメヌエットは、『アンナ・マグダレーナのための音楽帳』に収録され、マグダレーナ自身の手によって残されていることがわかっています。
https://amzn.to/4yFou5e

「Ahn」は作者不明の印ですが、さてこの作品は・・どこかで見かけたような気がしませんか?

ね?どこかの誰かの作品の書き出しに似てますよね。

私はこの手の作品は、18世紀のドイツ人書く、フランス的メヌエットのわかりやすい典型例だと思っています。

今回、講義で使用している楽譜は『バロック白楽譜』なのですが、この楽譜をお持ちの方は、ちょっと見てみてください。

彼女が書いているスラーを、『バロック白楽譜』では、全て省かれています。

この本の「はじめに」を引用します。

「白地図のような楽譜から自由にいろいろな可能性を見出して、試行錯誤を繰り返し、納得できる指遣い・アーティキュレーション・強弱記号・速度記号を書き込んでいくことを面白いと感じて欲しいのです。探し物をしているような楽譜の読み方をして『白楽譜』から作曲家の意図を解釈できるようになれば、素晴らしいと思います」

(太字のまま引用)


この引用文で述べているように、「試行錯誤を繰り返し」考えることは、バロック音楽だけにとどまらず、あらゆる時代において絶対に必要なことだと思います。

しかし、これを省くのは、「白地図」という美名の陰で、一次資料に対する敬意とリテラシーを放棄することではないでしょうか。

自筆譜や信頼すべき初期資料に存在するスラーやアーティキュレーションは、作曲家(あるいは当時の書き手)が残した「唯一無二の生きた証拠であり、解釈の出発点」です。後世の校訂者が付加した恣意的なスラーを削ぎ落として「白楽譜」に戻すことには大義がありますが、原典に書かれている情報まで消し去ってしまっては、誤読につながる可能性もあります。

(もしかすると、この楽譜はこうした一次資料を見ずに作られている楽譜かもしれません)

バロック倶楽部では、現代に流通している様々な校訂版(『白楽譜』を含む)と向き合いながら、行きすぎた加筆や、不当に省略された音・アーティキュレーションを一つひとつ一次資料と照らし合わせ、精査した上でお話ししています。

表面的な記号の奥にある「本来の語法」を学び、確かな根拠を持って作品を捉えたいと思われる方は、ぜひ来年募集予定の「バロック倶楽部2027年」のご案内をお待ちいただければ幸いです。

diary

前の記事

荒川恒子先生の思い出