5/27 VANITAS ~Venezia~ 終演しました。

チェンバロ・ピアノ奏者の水野直子です。

5/27(土)東京オペラシティ 近江楽堂で開催された
VANITAS ~ Venezia ~
終演いたしました。

5:27データ 表

27日は、多くのコンサートや運動会が重なっておりましたが
本公演を楽しみに予定を計画してくださいました方々、
また本来の予定を返上してご来場くださいました方々、
名古屋や九州など
遠方からわざわざお越しくださいました方々によって、
小さな会場には多くの拍手が鳴り響きました。

改めまして、
ご来場、応援くださいました皆様に
心からお礼申し上げます。

IMG_5714
(演奏後に)

今日は、この公演について振り返りたいと思います。

まずは今回のテーマ“Vanitas”について。

Vanitas(ヴァニタス)はラテン語で「空虚」を表します。

イタリア語になると、Vanità(ヴァニタ)となり、
一番よく知られているはかなさの他、
うぬぼれ、虚栄心、見え、
無益、移ろいやすさなどを意味します。

こうした、不確実で、
どちらかというとネガティブな印象を与える言葉を
なぜ選んだかといいいますと、
そこには私の個人的な経験が絡んできます。

実は私はヴェネト州ヴィチェンツァ国立音楽院大学院で
音楽図像学を学んでいたことがありました。
ちょうど12年前のことです。

この時期から
音楽を美術と比較しながらアプローチするようになったのですが、
その際の授業の一つ、美術史論で、
「美術史とは何か、何のための学問か」という講義を受けた時に
教授から提示されたものが
今回、チラシのデザインのヒントとなった
ヴェネツィア派の画家ジョルジョ・バルバレッリ・ダ・カステルフランコ(通称ジョルジョーネ)の絵画、
《三世代》(Tre età dell’uomo)でした。

私が初めて美術史という学問に触れた絵画です。

Giorgione_-_Three_Ages_of_Man_-_Palazzo_Pitti
(画像はWikiから拝借)

まずは簡単に絵画をディスクリプションしてみましょう。

この絵画には、黒い背景に3つの異なる世代の男性が描かれています。

中央には少年が、そしてその右手には、2本の五譜線が入った紙を持っています。
そして目線は手元の紙へ注がれています。

向かって右側の男性は、少年が持っている紙を指差しており、
口はわずかに開いています。
この様子から、男性は少年に音楽のレッスンをしていることがわかります。

(そのため
この絵画は《歌のレッスン》とも呼ばれています)

向かって左側の男性は観者へ、つまり私たちへ眼差しを向けています。
(彼の諦めともいえる表情・・ぐっときませんか?)

人物は全員、上半身のみが描かれています。

画面に描かれた人物は、実は同じ人物で、
異なる年代で描かれることで
「人生のはかなさ」=「ヴァニタス」を表現していると考えられています。

この絵画は1500〜1501年の作品で、
ヴァニタスは、当時好んで描かれたテーマの一つでした。

ヴァニタスといえば、
骸骨のモチーフのある絵画、
あるいは静物画などを思い出すところですが、
このように同じ種類の物体を使って表現されることもあります。

例えば、カスパー・フリードリッヒの絵画
《三世代》(Die lebensstufen)も同じテーマです。
出航する船が命のはかなさを示しています。

Caspar David Friedrich: "Lebensstufen".

Caspar David Friedrich: “Lebensstufen”.

私たちが絵画を見るとき、
当然、表面上の技法に目を奪われ、驚嘆しますが、
絵画の意味まで理解することは難しい場合があります。

なぜなら西洋の文化や
絵画の存在意義などへの配慮が薄いからです。

もちろん私もその一人です。

ですから、上記2例のテーマとその表現法を知った当時の私は、
絵画を読みとく面白さを知ると同時に、
ショックを受けました。

しかし、私がいたのは幸いにも
街自体が芸術作品というイタリアでしたから、
たくさんの芸術に触れ、
専門家の先生方とお話しさせていただくことで、
知的好奇心を満たすことができました。

この頃から
いつか音楽と美術のコラボレーションを実現したい、
そして、大好きなヴェネツィア音楽を、
美術史と触れ合うきっかけを作ってくれたヴェネツィア派の絵画とともに表現したい、と思い始めました。

実現するまで12年かかりましたが、
前回のルドゥーテ展同様、
種まきしていたことが、実になりつつあり、幸せに思います。

しかしもちろん、一人ではなしえなかったことです。
小林厚子さん、鳥木弥生さんが、笑顔で協力してくださったからこそです。
(あんなにすごい歌手さんたちなのに、お二人とも懐が深いんです!
いえ、懐が深いからこそ、深い演奏ができるのでしょうが!)

ということで、
今回の私たちの演奏会は
すでにチラシで、演奏会のテーマ「はかなさ」を表しておりました。

チラシをご覧くださった方々に
「絵画のようですね」と言われるたびに、嬉しかったです。

(カメラマンの深谷義宣さま、素晴らしい作品に仕上げてくださり、ありがとうございました!!)

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「ヴァニタス」は不安定なもの、命のはかなさ、
「存在していたものが、姿を消す」という、
悲しい、やるせない、抗えないものを指す言葉です。

いきものは、生まれおちると同時に死へと向かう、という、抗えない運命を背負っています。
しかしそれゆえに、今、その瞬間を謳歌しよう、という気持ちも生まれます。

また、もし、
今、何らかの理由で「辛い思い」をしているのならば、
そしてそこに「ヴァニタス」が存在するとするならば、

時間とともにその思いはメタモルフォーゼし、
やがては過去の遺物となり、
遺物はその後の人生の糧となり、
ひょっとすると、その方の人生に潤いを与えるものになるかもしれません。

小林さんと鳥木さんの歌とともに、
皆様の胸には
どのような思いが広がったでしょうか。

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さて、ここからは楽しい舞台裏の写真を掲載します。

鳥木さんのブログと合わせてお楽しみください。

当日は9時半に会場入り。

久保田さんがチェンバロを2台搬入してくださいました。

久保田 フレミッシュ1 イタリアンチェンバロ4

左のブルーは18世紀、フレミッシュチェンバロ(複製)で久保田チェンバロ工房さんのものです。 

右の赤のチェンバロは17世紀、イタリアンチェンバロ(複製)で、12/21にお披露目コンサートをさせていただいた楽器です。特別にお貸しくださったオーナー様、本当にありがとうございました!!!!!

搬入の様子。
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音響を聞きながら位置を決めます。
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11時頃からリハーサル。

13時すぎには終わって、簡単に食事です。
食べ物は小さなパンとか。

たくさん食べると眠くなっちゃうので、
本当に少しだけ。

開演前10分にお着替えを終えて、記念撮影。
前半は青。
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後半はシックな色合いに。
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プログラムはこちら

前半のかわいいモンテヴェルディからはじまり
ストロッツィ、ガスパリーニと
どんどん盛り上がって、
後半のヴィヴァルディでは大盛り上がり。

小林さんと鳥木さんのふくよかな歌声と美声が
会場いっぱいに響きわたりましたね!!

お二人に歌っていただいて幸せでした!!
ありがとうございました!!!!!

そして、いつも素敵な楽器でサポートくださる
久保田チェンバロ工房の久保田彰さん、みずきさん、
感謝申し上げます。
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次回は、
パンパン、とか
シャラシャラ、とか出てくるワクワク系の、やります。
あっちゃん、やよいちゃん、末長くよろしく♡

あと、フォルテピアノもね!

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しかし・・・
音楽とは、それこそはかないもので、
時間とともに消えていくんですね。。。

あっちゃんと弥生ちゃんロスです。ぐすぐす。